どうしてこの人なんだろう
何気なく横顔を見詰め、ゆるやかな動きを視線で追いながら思う時がある。
この人じゃなかったらオレは、もっと楽に生きられたかもしれない。
それまでと同じように、何とか周りの世界と折り合いをつけ、うまく立ち回ることが出来たのかもしれない。
そんな風に年をとって人生を過ごす。そんな未来の可能性もあったんだろう。
そんな事考えてたオレの目の前で克哉さんが一人、微笑んだ。
今、何、思ったのかな。
フワフワと、まるで花みたいに微笑んでる。暖かい日が差し込む冬の窓際。
なんの穢れも知らない、ただ一人咲ける花。
でもさ、悔しいけど、本当は克哉さんだってそんなんじゃない事をオレは知ってる。
克哉さんの中に沈殿しているドロリと渦巻くもの。あまりにその質量が高くて重くて、底へ底へ沈んでいるもの。
それなのにさ、そんな風に笑うんだもん。
なんか、ズルくない?
だからオレは、時折、克哉さんの中身をぐちゃぐちゃに掻き混ぜたくなる。
澄んだ上澄みの克哉さんを濁して、汚して、かき乱したくなる。
そしてオレは、そんな自分の中に渦巻く欲望を嫌悪する。
克哉さんが不意にオレに顔を向けた。フワリとした笑顔を纏ったまま。
「今さ、心の中で太一の歌、歌ってたんだ」
もう克哉さん。オレの事、泣かせないでよ。
だって克哉さん、今、すっげー幸せそうなんだもん。
オレ、そんな事言われたら幸せすぎて苦しいよ。そんな風に笑う克哉さん見てると幸せで胸が痛い。
ほんと、自分でどうすればいいのか分からないくらい。
「太一?」
きっとオレ、変な顔してたよね。本当は笑おうと思ったのに。克哉さんが心配しちゃうから、ちゃんと笑って「えー、オレ、克哉さんの生歌、聞きたいなー」って言って・・・・
その時、一歩近付いた克哉さんに唇を塞がれた。
驚いて目を開けたままで克哉さんの顔を見詰めた。克哉さんにゆっくり舌で唇を開かれ絡め合わせるけど、それは激しさじゃなくてなんかあったかいキスだった。
そんな長くゆったりしたキスからようやく互いの唇を離し、オレは克哉さんの瞳を見上げる。
「オレは、太一が好きだよ。多分、太一が思ってるよりずっとね」