bubble
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『bubble』
泡。あぶく。また、泡のように消えやすく不確実なもの。
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「プレゼント?」
「あぁ、入浴剤だって。『バス&シャワージェル』って書いてあるけど。」
寿也は手の平におさまる程のクマについたタグを読んだ。
スケルトンのブルーとオレンジ2匹のクマが向かい合うビニールのパッケージは、いかにも女の子女の子した可愛らしいマスコットのようだ。
小さなピンクのラッピング袋の中から現れたそのクマは、昼間、不意に寿也の元に訪れた女子から手渡された物。
「ふーーーーーーん…お前、それって結構艶っぽいプレゼントなんじゃねぇか?」
「え?」
「女からのそういうアプローチには鈍感だよなぁ。
女がそういうモン渡すって事はな、その裏に秘めたる女心があるってこったよ。」
顔は手にしたクマに向けたまま、視線だけを吾郎に向ける。
「へー、そうなんだ。君に女心のレクチャーを受けようとはね…。
そう、だったらどこかのラブホでも行ってあの子と仲良く泡風呂を楽しめばいいってことか。」
「あのなぁ…そこまであからさまに言うこたぁないだろ。お前が言うと妙―にえげつなく聞こえんだけど。」
「吾郎君の思い過ごしじゃない。」
「ちっ、しょうがねぇなぁ…
ま、寿君としてはそっちにご使用の予定はないんだろ。」
「君には関係ないだろ。わからないよ、気が向けば使うかもしれないし。」
「言うねぇ、無理しちゃって。まいいや、寿の気が向くの待っててもキリねぇから、俺が使ってやるって。」
「ちょっと待てよ、僕が貰ったものなんだから、勝手なことするなよ。」
「いいじゃねぇか、どうせここで使うとしたら、部屋の風呂でしか使えねぇんだしよ、ここで使えば結果的に寿も使う事になるんだから。」
「なんだって、『お湯を入れる際に蛇口に当たるように』か、こうか…?
おお、すげぇ、寿、ちょっと来いよ、すんげぇ泡だってるぜ、これ、ちょっとゴージャスじゃねぇ!」
「あ、確かにこれはすごいね、リッチな気分になりそうだ。」
「俺さぁ、ガキん時、こういうのに憧れててよぉ、湯船に石鹸入れて必死に泡立てたらおふくろにめちゃくちゃ叱られたんだよなぁ。」
「確かにちょっとやってみたいとは思ったけど、本当にやったとはね。」
「お前も入っちゃえよ、時間経つと泡、消えちゃうじゃねぇのか?」
「ん、どうだろう、少しは消えるのかな。そうだね。」
「もうちょっとそっちに詰めてもらえるかな、せめて半分までにして。」
「せっかくゴージャスな泡風呂なのに膝抱えて体育座りか、いまいちリッチじゃねぇなぁ…。」
「仕方がないだろ、狭いユニットバスなんだから。そんな事言うなら吾郎君出なよ。元はと言えば僕だけへのプレゼントだろ。」
「おい、今更それを言うかよ?ほれ半分。」
ちゃぷん
本当にすごい泡…白い泡に包まれて浸った部分はすっかり見えないや。
明かりの反射で泡の正面が光って揺れてる……
何だろう……
この感触……皮膚に小さい粒みたく泡の発泡感を感じる……変だな…
違和感…あぁそうか、何だか自分が食べ物になったみたいな感じだ……
白い泡に浮かぶのはソーダ…クリームソーダかな……
絶え間無く泡が弾けて溶けてく……このまま僕も一緒に………溶かされて…
あ…まずい…
食べ物になったみたい、だなんて……どうかしてるな………
こんな、泡に包まれているってだけで、非現実的な思考回路になって…
結構、雰囲気に飲まれやすいのかな……
「おい、寿?」
「あ」
「どうした?さっきから泡見たまんま固まってっからよ。」
「あぁ、ちょっと考え事してて……」
「ちょっと不気味だったぜ。」
「不気味って……あんまりな言葉だけど……
確かに自分でも自分の思考が不気味だったかも。」
「欲情でもしてたか?」
「は?」
「泡で見えねぇけど、寿君のあそこ、勃ってんじゃねぇ?」
「ちょっと…吾郎君、急に変な事言わないでもらえるかな。」
「どれどれ……」
「ちょ…!何するんだよ!」
「あ、マジで勃ってねぇ、つまんねぇの。」
「あのねぇ、君、人がいつでも発情してるとでも思っているのかい?」
「違うのか?」
「違かっただろ?逆にこの状況は君のほうが誘ってるとしか思えないんだけど。」
「わりぃ誘ってる、かも」
「は?」
「何かやべぇよ、この泡。
下が見えねぇじゃん、これ?何かこう、見えねぇとムラムラするっちゅうか……」
「チラリズムってやつ?」
「そうそう、それそれ!で手近にお前しかいねぇしよ……」
「吾郎君、それじゃあ中年おやじだよ、しかもかなり節操のない。」
「お前に節操無いなんて言われたくねぇ、散々人のこと誑かしやがっといて。
近いんだよ、近すぎる!好きでこんなんなってんじゃねぇ!」
「ちょ…!!離せって…!っ、手…あ!」
「……やばいだろ、これ?」
「確かにきついかもね、それ。」
「どうしてくれんだよ。」
「僕のせいじゃないよ。」
「お前のせいだろ、お前が…」
「……?」
「お前が女と風呂入ってんのとか考えたら、何かこう、どうしようもねぇ感じがしてよ……」
「……もしかして、さっきいった事気にしてた、とか?」
「気にしてなんかねぇ、してねぇ…んだけど」
「体は気にしてるって訳か。」
「えげつねぇな。」
「お互い様だろ。」
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