「ひぇぇ、やっぱあっちー」
「そんな、暑い暑いって言っても涼しくなる訳じゃないんだから、ちょっとは我慢しろよ。」
「だってぇ。暑いもんは暑いんだもん。」
Tシャツの裾を摘みヒラリとめくり上げると、それでパタパタ顔を扇ぎながら、太一はうんざりとした顔をした。
長く続いたレコーディングも今日はオフで、久しぶりに二人で家でのんびりしようと決めていた。
普段より少し遅く起きると、太一はすぐさまエアコンのスイッチを入れている。
そんな行動を何気なく見詰めながら、克哉は軽く腕組みをした。
昨日の晩も、エアコンが切れると途端に太一は起きてスイッチを入れてたな。
あれじゃタイマーの意味なんかないよ・・・・・
それにクーラーの効かせすぎは、太一の喉にも良くないよな。
暑さの限界まで、クーラーをつけないでいよう。
そう言い出したのは克哉だった。
「うん、分かった!さっすが克哉さん、地球の事考えてる〜〜〜」
「それだけじゃなくて、我が家の電気代削減も兼ねてるんだけど」
小声で克哉が言ったのには全く気付かず、太一はその場でエアコンのリモコンを探すため、キョロキョロと辺りを見回していた。
「あったあった」
ピッという電子音をさせ、太一が電源を切った。
しばらくは室内もまだ冷気が残って、そんなには暑さも感じなかった。
しかし、10分もするとジワジワと温度が上がっていくのが肌で感じられる。
克哉がサッシを開け網戸にすると、むっとした外の熱気が室内に入り込んできた。
白いカーテンを曳いたが、風がない為ぴくりとも揺れない。
これから次第に日が高くなるにつれ、もっと温度は上がっていくのだろう。
せめて午前中位、我慢しなくては。
克哉は一人覚悟を決めるが、太一はそうもいかないらしい。
「あじぃぃよぉ」
克哉は心底だるそうに舌を出す太一を眺めながら、大型犬が長い舌を出しながら荒い息をはぁはぁさせるのによく似ているな、などと考え少し笑ってしまった。
すると、突然何か閃いたように太一の表情が明るく輝いた。
「そうだっ、克哉さん!昨日の帰りにスーパー寄って、あれ買ったじゃんっ、あれ食べよ!」
「あれって何だよ」
「えっと、あれってなんて呼べばいいんだっけ・・・あっそうだ、チューチューアイス!」
「チューチューアイス?あぁ、棒のアイスのことか・・・
あれってチューチューアイスって言うんだっけ?」
「え、違う?まいいや、あれ、凍らせておいたんだよね?克哉さん、一緒に食べよ?」
「うん、そうしようか。」
嬉々として太一は冷蔵庫へ向かう。
昨晩スタジオの帰り道、二人で立ち寄ったスーパーでそう言えば太一がそんな物をカゴに放り込んでいた事を思い出した。
「はーい克哉さん」
太一は、手にした棒状のビニールを克哉の前でポキッと半分に折り、その一つを克哉に差し出した。
冷気が白い靄のように見える。
「ありがとう」
にっこりとそれを受け取ると、冷やかな温度が手に伝わり心地いい。
早速太一は目の前でアイスに噛り付く。
「うまー!克哉さん、夏はやっぱこれだよねーー!」
「うん」
微笑みながら克哉もアイスを口にした。
さっぱりとした甘さの、アイスというより氷に近い食感の『チューチューアイス』を口に含むと、ほんの少し鬱陶しい暑さを忘れられる。
克哉は、子供の頃以来口にしていなかった懐かしい味をゆっくりと味わった。
太一はと言えば、ガリガリと歯を立て、あっという間に半分の棒を空にしてしまった。そして物欲しそうな表情で克哉を見詰める。
「ね、克哉さん、もう1本。いいでしょ?」
「子供じゃないんだから、その位大丈夫だろ」思わず噴出しそうになりながら答える。
「わーいっ、やったね!」
再び克哉に背を向けると、鼻唄を歌いながら2本目のチューチューアイスを手にしながら戻ってきた。
そしてパキっと小気味いい音をさせ、半分に折る。
「へへー、大人食い」
悪戯そうな表情で、2本目を口にした。
太一も少し暑さが和らいできたのか、1本目よりも気持ちにゆとりを持って味わっているようだ。
「克哉さんは食べるの、遅いね。」
「そうかな?」
「うん、まだ半分しか食べてないじゃん。」
「太一ががっつき過ぎなんだだよ。」
「そんなことないって!ってか克哉さん、まさかそれ、溶かしながら吸ってるとか?」
「う・・・うん。つい、長い時間味わっていたくなって・・・・」
「うっわ・・・・その食べ方、なんかエロ・・・・・」
「こら、太一。」
慌てて叱ってみたが、太一の視線がどうも口元に注がれているようで、気になってしまう。
気にしすぎだろうと思い、ちらっと太一を覗き見るとやはり太一はアイスを銜えながらじっと自分を見詰めている。
内心焦って、そんな視線を吹っ切るように克哉はビニールの下に溜まったアイスを指で押し上げ、塊をすっかりと口に含むとそのまま口の中で転がした。
「ねぇ克哉さん」
「ん?」
「克哉さんも、もう1本食べない?」
確かに、たった半分では物足りないような気もしたが。
問い掛けた太一の声が、何となく含みがあるようで克哉は僅かに気が引けた。
「じゃあ、太一が持ってる半分をくれないか?」
「だーめ。これはオレの。克哉さんに新しいの持ってきてあげる。」
そう言うや否や太一は更にもう1本、手にし戻ってきた。
「あ、ありがとう」克哉は手を伸ばす。
「そうじゃなくってー」
「え?」
「克哉さん、あーんして。」
「あーん、って・・・だって、それ、まだ開けてないじゃないか。」
「だって克哉さん、溶かして食べたいんでしょ?だったらこのまま舐めて溶かしたらいいじゃん。
その方が一気に飲めるし。」
正論のようで正論ではない太一の言葉を聞き、克哉は軽く受け流そうとしたが、既に口元にアイスが突き出されている。
仕方なしに、克哉はそれをビニールの上から軽く口に含んだ。
ビニールの味はそれこそ味気なかったが、それでも口内は冷やされ心地よさはある。
その感触を確かめるように克哉は舌を動かした。
先端の氷が溶けてくると、側面に舌を這わせ横から口に含む。じんわりと中身が溶けていくのが分かる。
いつのまにか太一がそれを持っていることさえ忘れ、中の氷を溶かす事に集中してしまっていたのだが、突然ちゅぱっと音を立てアイスを引き抜かれた。
克哉は我に返って顔を上げた。
「克哉さん・・・・それ、やばいって」
「え?」
素っ頓狂な声を上げたすぐ後にはもう、太一に唇を塞がれていた。
突然のキスだと言うのに、いきなり口内全てを覆ってしまうような深く長いキスに克哉は面食らう。
そのキスは、酷く太一が切羽詰っているように感じられた。
今まで冷たい物をずっと口に含んでいたせいで、太一の入り込む舌がやけに熱く感じる。
呼吸をしようと克哉が唇を離した時、「克哉さんの口の中、冷たくて気持ちいい」と小声で太一は囁いた。
その声の色香に、克哉は困惑する。
「ね、克哉さん。あのさ。」
克哉の身体を抱き締めながら太一は言葉を続けた。
「ん?」
「これ、克哉さんの中に、挿れていい?」
「え・・・挿れるって・・・・そんな、ダメだ、」
太一が何を要求しているのか理解し、克哉は慌ててかぶりを振った。
「きっと、冷たくて気持ちいいよ?」
「そんな、だめだ、絶対だめだ!」
「えーいいじゃん。今のは克哉さんが舐めて溶かしちゃったから新しいの持ってきてあげるから。」
「そういう問題じゃなくてっ」
「もー、克哉さんの照れ屋さん」
不意に克哉から身体を離し背を向けると、まずサッシを閉めた。
そのまま冷蔵庫から4本目になるアイスを取り出す。
「克哉さん。ベッドに行こうか。」
無邪気さを装い、その中に圧倒的な男の欲望を感じさせる瞳で見詰められ、克哉は恥じらいで思わず顔を背ける。
そんな反応も太一は予想の範囲内のようで、余裕さえ感じさせる微笑みを浮かべていた。
「ね?」
小首を傾げ、無邪気なお願い事でもをするように上目遣いに克哉を見る太一の視線を感じながら、克哉は心の中で「ずるい」と呟いた。
抗える訳ないじゃないか。
太一のその顔に。その声に。
「・・・・・分かったよ」
顔を背けたまま小声で答える。
「克哉さん・・・・」
熱っぽい太一の声が克哉を呼んだかと思うと、太一は克哉の傍に歩み寄り脇を抱えそのまま二人でベッドへなだれ込んだ。
スプリングがバウンドし、二人の身体が跳ねる。
「克哉さんが、いけないんだよ?」
ベッドに仰向けになった克哉の肩に顔を埋めた太一が顔を上げながら囁く。
「オレ、克哉さんが何気なーくする仕草も、全部、キちゃうわけ。
それなのにさ、あんな事するんだもん、たまんないじゃん・・・・」
「それは・・・・太一が・・・・舐めろって言うから・・・・・」
「そうやって、オレのせいにして・・・・克哉さん、ずるい」
そう言うと、早急に太一は克哉の服を脱がしていく。
汗ばんだ服が肌に纏わり付くのを、強引に剥がす。
まるで犯されてしまいそうな手荒さに克哉は息を飲んだが、そんな太一の様子に身体は酷く興奮してしまう。
あっという間に全身の服を剥ぎ取られ、克哉は全裸を太一に晒していた。
「克哉さん・・・・・すっごい固くなってる」
そんな事は、太一に言われるまでもなく、分かり切っていた。
「欲しいんでしょ?・・・アレ」
「・・・っちがっ・・っぁ!」
克哉が答えようと言葉を発した途端、胸に冷やかな物を宛がわれ、その感触に声が途絶える。
「ほら・・・・・ここ、冷たい?」
胸の先端にコロコロとアイスを転がされ、克哉は冷たさとその感触に身体を弓ならせた。
まるで催促するかのように、太一の前に胸板を突き出してしまう。
「こっちも・・・・?」
愉しむかのように、太一は棒状のアイスを克哉の身体の上を移動させた。
「っはぁ・・・・」
エアコンを切ったまま窓を閉め切ったの室温は、蒸し返るように暑い。
その室温とそこに感じる冷気との差に余計に過敏に反応してしまう。
溶け始めたアイスの雫が肌に水滴を落とし、それさえにもビクリと身体を振るわせた。
そんな克哉を見詰めながら、太一も乱暴に自分のTシャツを脱ぎ捨て、全裸になる。
太一から流れる汗が克哉へ落ちた。
「じゃ・・・挿れるよ?」
克哉が答える前に、アイスは克哉のアヌスに宛がう。
「・・・っう・・・あ!」
軽く触れただけで、今までに感じた事もない温度に思わず身震いした。
「冷たい?」
耳元で太一が囁く。
無言でコクコクと首を縦に振る。
「そう・・・・冷たいんだ・・・・・」
太一は満足気に呟くと、更にアイスの先端をその周辺に滑らせた。反射的に身体がガクガクと震える。
けれどそれは、決して場違いな温度からだけでなく、堪らないじれったさを感じてしまったからだった。
思わず克哉の腰が揺れる。
そしていつの間にそこはアイスのビニールから零れる水滴だけでなく、克哉自身から溢れ出る雫が濡らしていた。
それを見届けると、太一はゆっくりとビニールの丸い先端を克哉の中に埋めていった。
「いや・・・・だ・・・・っ・・・・太一・・・・それ」
「んー?」
克哉の反応を確かめながら、太一は手を弛めない。
「だめ・・・・だっ・・・・つめたすぎて・・・・」
「かんじちゃうんでしょ?」
「っうっ・・・」
言葉に詰まる。反論出来ない。
体内にそぐわない温度が侵食していくのを感じながら、克哉は今までに味わった事もない快楽を感じていた。
身体が酷く熱いせいで、余計に体内に入り込む温度が沁みる。
「っあっ・・・たい・・・ちっ・・・・それ・・・・だめ・・・だ・・・」
無我夢中で太一の首に腕を回し、しがみ付く。
そうしなければ、どうにかしてしまいそうな感覚に浚われそうだった。
それでも尚、太一はアイスを奥へと推し進める。
そして、ある一点に到達するとビニールの先端を擦った。
「っ・・・・ぅあっ・・・・!」
「これでここをこうするの、いい?」
「はぁっ・・・ぁ・・・」
克哉の口からは、甘い嬌声しか出すことが出来ない。
言葉にならない代わりに太一の肩に爪を立てる。
執拗に抜き差ししながら、零度の物がそこに当たる度、止める事の出来ない声が漏れてしまう。
固く瞑った目から、薄っすらと涙が滲んでいた。
・・・・このまま、続けられたらオレは・・・・・
そう思った時、太一の声がそれを遮った。
「克哉さん・・・・・・ごめん・・・オレも、もう、ガマン出来ない」
克哉を見下ろしていた太一は、ゆっくりとそこからアイスを引き抜く。
「っあ・・・」
切なげな声を上げ目を開けた克哉は、自分を見下ろす太一の視線とぶつかった。
その太一の視線だけで、身体が反応してしまう。
「克哉さん・・・・挿れるよ?」
そう言うと太一は自身のものを克哉に宛がい、そのまま身体を沈めた。
「う・・ぁ・・・・太一の・・・・熱い・・・・」
克哉は思わず口にする。
「克哉さんの中は・・・すっげーつめたいよ」
押し留めるような声で太一は言った。
「なにこれ・・・・克哉さん・・・・・やばいって・・・・
なんか・・・克哉さんの中、冷たくて、すっげー気持ちいい」
「た・・・いち・・・・」
太一が感じているのが、熱い内壁を通じダイレクトに伝わってくる。
そこは、冷たさが麻痺して熱く感じるのか、太一の体温がいつもより熱いのか分からない。
ただ理解出来ない温度にめちゃくちゃにされてしまいたいという、得体の知れない欲望に流されていた。
「克哉さんっ・・・・・オレ・・・・・すっげー気持ちいい」
いつもより荒々しい動きで克哉の奥に身体をぶつけると、太一から汗の雫が滴る。
まるで熱さで溶かされるような快楽に意識が飛びそうになる。
「たい・・・ち・・・・オレ・・・・・溶けそう・・・・・」
うわ言のように口にした。
「いいよ・・・克哉さん・・・・一緒に・・・・溶けちゃおうね・・・・・
ほら・・・克哉さんの中・・・・すっごいトロトロになってる」
荒い動きと裏腹な甘い囁きに、克哉は目が眩む。
「ダメだ・・・・・たいちっ・・・・オレ・・・・」
「克哉さんっ・・・・オレも・・・・・溶けちゃいそう・・だから・・一緒に・・・ね?」
「はっ・・ぁあぁ・・・・」
「克哉さん・・・オレもイっ・・く・・・」
ビクビクと身体を痙攣するように震わせ、二人で同時に白濁を放つ。
身体の奥に、太一が放った感触に身を震わせると、克哉も最後の一滴まで吐き出した。
ぐったりした身体を二人してベッドの上に投げ出す。
ベッドの隅に転がったアイスもすっかり液体に戻っている。
朦朧とする意識の中、何とか太一は立ち上がるとエアコンのスイッチを入れた。
少しずつ室内の温度が下がり汗が引くと、生き返るような気がした。
「克哉さん。シャワー浴びちゃおっか」
「うん・・・・そうだな。」気だるげに答える。
何気なく言った「エアコンを切ろう」という言葉がどこをどう間違えたのか、こんな展開になろうとは。
僅かに後悔しながらノロノロと立ち上がる。
その後ろから太一が負ぶさるように腕を絡め耳元で言った。
「また、エアコン、ガマンしよーねー」
08/8/13