神
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「だーーかーーらーー」
大仰に君は言葉を延ばす。
何でこんな話になったんだっけ。いつも通りの練習後のキャッチボールも終え、
グランドを眺めながら君と並んで座っていた。
他愛もない会話。
今度の中間テストの話をしていたんだ、世界史・・・・・
ユダヤ教からイエスがキリスト教を成立した過程。
結構、興味があったんだよね。なのに君は。
「そんなモンはもともといねぇの。
あ、女神さんだったらいてくれてもいいかもしんねぇな。
勝利の女神って奴?
ま、それだってこっちから引っ張り出すだけなんだけどな。
神様なんていねぇんだよ、元から。
この世にすがる神なんてな。
いるとしたら、ここにいんの、ここ。
俺ん中に。
俺が神!
この世は俺のためにあんだよ。」
君は親指で自分の胸を突つき、そう言いながら僕に顔を向け、ニカっと白い歯を見せた。
たまにはこうやって君の講釈を聞くのもいいかもしれないな。
君の言う事は全て明快で分かりやすい。
ま、それに同意出来るかどうかはともかくとして。
「お前にもな。」
?
「お前も、お前の神様!
この世はお前のためにあんだよ。」
僕は滅多なことでは涙を流さない。
人前でも一人でいても。
特に悲しい事で涙を流す事はもうこの先ないかもしれない。
それは決して我慢している訳ではなく。
身に起こる事がやるせない時ほど、僕の心はそれを通過させていく。
淀んだ水をろ過するように。
濁った塊だけを残して。
君の言葉は何でこんなに簡単にこの塊を溶かすんだろう。
さらさらと音を立てて崩れ流れていく。
これが涙だったっけ。
僕は泣いているのかな。
「お、俺の話がそんなに感動したか?しゃーーねーーーなーーー、
男がたやすく泣くんじゃねぇよ。
ま、そういうこった、お前、夕飯遅れんなよ!!」
そう吐き捨て、照れくさそうに笑って立ち上がった君は僕に背を向け寮へ向かって行った。
オレンジ色の夕焼けが景色の色を染める。
空気まで染まっているみたいだ。
「・・・・・僕が神様。」
ちょっと口に出して呟いてみた。
こんな恥ずかしい言葉、君は簡単に言ってのけるんだね。
フッと小さな笑いが漏れた。
僕は立ち上がり、歩き出す。
僕のためのこの世界を。
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