贈り物
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寮の部屋の扉を開けた……瞬間、目の前を白い物体が横切った。咄嗟に慄き顔に手をかざす。
「何だ、今のは??」
俺は恐る恐る部屋に足を踏み入れ目の前を遮った物を探す。
カサッ…
微かな音の元に目を留めると部屋の隅に白い十姉妹が小さく佇んでいた。白い羽に紅い尖ったくちばしのコントラストが目を引く。
「なーーんだーーーー、お前の仕業か、ビビらすんじゃねぇよ!!
…って何だってこんな鳥がここに居るんだよ?」
などと言いながらも手は十姉妹へ延ばした。ゆっくり指先を近づける。逃げないように・・逃げないように…・・
「やった!」思わず小さく呟いた。柔らかな体温の物体を両手に包む。手の平の中から小さな黒い瞳が俺を見詰めている。
「お前、結構かわいい顔してんじゃねぇか、どっから迷い込んだんだ?」
顔をそいつの鼻先にぐっと近づけた瞬間
「オメデトウ」
突然、十姉妹は口を開いた。
「へ?」
俺は素っ頓狂な声が漏れる。
「オメデトウ オメデトウ ゴロウクン オタンジョウビ オメデトウ」
くぐもった小さな声は確かにそう言った。
「はぁ??なんだこいつ??何で俺の名前知ってるんだよっ!って言うか何で今日が俺の誕生日知ってんだよ?!」
「ゴロウクン アイシテルヨ ゴロウクン」
……・寿の野郎か……
一気に全身が脱力した。
最近妙によそよそしいと思っていたんだ。不意に姿が見えなく事が度々あった。
あいつ、俺に隠れてこんな事仕込んでたのか?
ふと脳裏に寿也の姿が思い浮かぶ。
一人この十姉妹に向かって呟く寿也…・「愛してるよ、吾郎君、お誕生日おめでとう・・
吾郎君、愛してるよ、お誕生日おめでとう…・・」
…・・鳥肌が立った。
「あ、もう見つかっちゃったんだ?」背後から明るい調子の寿也の声。
「もうちょっと秘密にしておこうと思ったのに。
これ覚えさせるの大変だったんだから。」
何も言うまい。こいつにはもう何も言うまい。
「お、おう、お疲れ様。」
「その子、かわいいでしょ?名前をつけようよ、何がいいかな、吾郎君はどんな名前がいい?」
「…・何でもいいよ…ってかどうでもいい…」
「何でもいい事ないよ!、本当は『吾郎くん』って付けたいんだけど吾郎君が「ごろうくん」てこの子を呼ぶのはやっぱりおかしいじゃない?・・って吾郎君聞いてる?」
いや、いっそ聞こえなければどんなに気が楽か。
そっと十姉妹の顔を覗き込む。
…・お前も大変だったろうな、よりによって寿也に選ばれたばっかりに……
ふと手を緩めた。その瞬間。
「あ!!」
二人同時に声を上げた。
親指からの僅かな隙間からもう一人の『吾郎』はするりと逃げ出し部屋を一回り飛んだかと思うと、半分開いていた窓から外へと飛び立った。
一瞬の事だった。
呆然とした顔で立ち竦む寿也。
「…・ま、しゃーねーーよ、あいつもここにいるより自由に空を駆け巡ったほうが幸せってもんだ。気――落とすなって!!」
「…・・そうだね、分かったよ、きっとあの子の事だから何処でも生きていけるよね…・。」
「…それ、どういう意味だ」
□□□
「ゴロウクン アイシテルヨ オメデトウ オタンジョウビ ゴロウクン…・」
眉村はその鳥を右手の人差し指に乗せ瞳を見詰めた。
突然、半開きになった窓から飛び込んできたこの十姉妹。
「どこかの莫迦の仕業か………」
深く溜息をついた。
莫迦二人の顔を思い浮かべる。本物の莫迦と、その莫迦のせいで莫迦に成り下がる男。
「明日の朝食のサラダを持ってきてやるから、それまではこれで我慢しろ。」
コップに水を汲み机の上に置いた。そっとコップのふちに十姉妹を留まらせた。
「オメデトウ アイシテル」
「……そりゃどうも………。」
折角の吾郎誕生日だと言うのに、微妙なものをUPさせてしまいます。(苦笑)
ラブラブでもないし、シリアスでもない、何とも形容しがたいものですね。
ちゃんと祝ってあげたかったのにlぃ?!
2006.11.5
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