花に寄せて
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「柄じゃねぇんだけどな。」
そんな言葉は、それまでの無言の状態からとしてはかなり唐突だった。
それでもその言葉に「なにが。」や「なんで。」などと言う疑問符を投げる気が全く起きなかった。
何の違和感さえ持たず次の言葉を待つ。
「この花は嫌いじゃねぇ。」
「へぇ。」
目に眩しい程鮮やかな黄色達が揺れている。
確かにこの人が花に興味を持つとは思えなかった。きっといつもなら軽くイヤミの一言でも言って受け流すだろうに。
それが出来なかったのは、この咲き誇る花達を前に俺でもほんの少し乙女、入っていたのか。
「なんか懐かしい気がすんだよ。」
「へぇ。」
「ずっと昔、こんな風にこの花を見てた気がする。」
「へぇ。」
全く、人の事などお構いなしだ。
隣りに立つ俺に掛けた言葉なのか違う誰かに言っているものなのか、もしかしたらただ自分自身と話しているだけなのか。
だとしたらこの人の中にある僅かな感傷に付き合わされている自分は相当の間抜けだ。
「誰とですか。」
溜息混じりに社交辞令のようにようやく疑問符を口にする。
「多分、おとさん、かな。」
一瞬、心臓がドクンと鳴った。それでもなぜかそれを悟られないように前を見詰めたまま立ち竦む。
聞いた事はある話。
時間の端々にこの人はその面影を探しているのか。
俺の知り得ない過去。この人の中にぎっしりと詰まっている色んな思い。
参るよなぁ。
こんな風に小出しに突きつけられても俺はそこには行けねってのに。
無言のままの俺に何を思ったのか先輩はふと足元に咲くその1本の菜の花をポキっと小さく折るといきなり俺の耳の上の髪に差した。
「ちょ…ちょっと何するんすか、先輩!」
「あん?お前、結構カワイイ顔してっから花とか差したら似合うんじゃねぇかと思ったんだけどよ、やっぱイケてんじゃん!」
「何で男の俺が花差して似合ってなきゃなんないっすか。」そう言い捨て、その花を掴む。
「あーあ勿体ね、折角のプレゼント。」
手にした小さな黄色い花を投げ捨てる事も出来ず、かといって仕舞う事が出来る筈がない。
本気で止めて欲しい。
結局のところ、それだけだってこった。
なーんの照れも外聞もなく、こんな恥ずかしいマネされちゃ居た堪れない。
きっとこっちは、この花を見るたび思い出すってのに。
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