空気が蒸し返る。
密集した人の熱気、歓声、昂揚。


そして、その中心にいるのが太一だ。
眩しいライトが溢れているステージに向かう観客達の顔は輝いている。
皆、太一の歌を聴き、太一のギターを聴き、太一の姿を追う。
決して大柄とは言えない太一が、このステージの上で圧倒的な求心力を持ち、観客達を熱狂させる。

克哉は舞台袖から、そっと客達の姿を見詰めた。

すごい。皆、太一の音楽を聴いて、こんな風に太一に注目して・・・・
いつの間にか太一は、大きくなったんだな・・・・・


大音響と乱れるような照明。喧騒にも近いこの状況の中、克哉は一人、感慨に浸った。

ふと激しいドラムの音が止み、眩しかったライトが全て落とされる。
途端に世界は暗転する。
ステージと客席を包む闇。静寂。

小さくステージにスポットライトが当たった。
ぽつりと一人小さな丸椅子に座り、ギターを抱えたまま俯いている太一を照らす。
太一は動かない。
観客は息を飲み太一を見詰める。

ゆっくりと太一の指先が動きだし、弦を爪弾いた時、会場の空気は変わった。
響く弦の音。
アコースティックの緩やかな音の振動が空間を包む。


あの時と何も変わらない


克哉は思い出す。
初めて太一のステージを見た日の事。
太一のギターが会場を包んだ時、自分が感じた感情。
なぜか、ふと心に浮かんだ「悔しい」という想い。
安らいだ気持ちになるのに、同時に、心のどこかがざわめいた。
太一の音が、確実に自分の中の何かを捕らえ、シンクロしていた。

太一。
オレはやっぱり太一の音楽が好きだ。
違う、かな。
多分、太一の音楽が必要なんだ。
太一の身体や、声やギターを通って音になった周波数は、オレの中で息づいている周波数に重なる。
オレ達は全然似ていないようで、同じものを持ってる。
太一の音を聴いているとそれが分かる。
だから、きっとオレ達は離れられない。

太一は分かってないのかもしれない。
自分の生み出す音が、どんなにオレを惹きつけているのか。
オレがどんなに太一の音楽を必要としているか。

だから太一。

どうか太一の音を奏でていて欲しい。

これからもずっと。














2008/6/2