祭り
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日が落ちていく。
空の色が移ろい、周りの景色も徐々に色を変えていく。
神社の境内の中に、提灯の光が少しずつ輝きを増していくようだ。
夏の蒸す空気の中、たくさんの人達が僕の前を通り過ぎていく。
皆笑顔でこの夜の祭の空間を過ごしている。
子供達も大人達も皆はしゃぎながら、この夜を共に過ごしている。
境内に響くやぐらの太鼓の音が胸に響いてくる。
まじかで聴く太鼓の音は、こうも耳よりも体に響くのか。
立ち止まり、この幸せな光景を眺めていた僕の目の前を、黄色い蝶のような帯をひらめかせた赤い浴衣の少女が駆け抜けた・・・・。
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「おにいちゃん!早くしないと置いていっちゃうよ!」
「待てったらっ、美穂っ!」
青地の絣模様の浴衣を着た僕が追いかける。
パタパタと音を立てて草履の妹が境内への道を掛けていく。
人混みの中に紛れて消えてしまいそうな妹の姿を見失わないように僕は必死に追い掛けた。
屋台の雑踏の中、「おにいちゃん、ここだよっ!」
無邪気に笑う妹の姿を見て、思わずほっとして、
「だめじゃないか、迷子になったら美穂一人じゃ帰ってこれないだろっ!」
と憎まれ口を叩く。
「おにいちゃんのいじわるっ!」
少し、目に涙を貯めて上目使いに見上げた妹の頭を軽く撫で、僕らはゆっくりと人波に押されて歩き出した・・・・・。
「おい、としっ!!なにやってんだよ!
こっち来いよ、輪投げやろーぜっ!」
再び、雑踏の音が耳に届いた。
なんでこんな場面を覚えていたんだろう・・・。
きっとこの、祭りの空気が僕を幼かった時に引き戻すのかな。
吾郎くんが僕の手を引いて歩いて行く。
「ほら、こっちだよ、見てろよー、
あのでっかいの取ってやっからなーー!」
君の横顔を見てると。
何故だろう、
涙で少し君の姿が霞むんだ。
この幸せな時間が愛しくて、名残惜しくて、でも何故か悲しくて。
永遠でないのは分かっているから。
きっと幸せすぎるんだね。
いつか、この夜の事を思い出す時も来るのかな。
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