片足をもいだ。
指先に小さくぷつりという感触。
手の中に収められた緑色の昆虫。
そっとそれを土の上に下ろす。
後足をもがれたその昆虫はゆっくりと進みだす。きっともう高く飛ぶ事は出来ない。
太一はそう思ったが昆虫は残された足で何事もなかったように飛び去ろうとした。
もう1度素早く捕まえるとぷつっともう1本の足をもぐ。
同じ右側の前足。
これでもうバランスを取ることは難しいだろう。
再びそっと土に乗せる。
じりじりと残された足を動かしているが、僅かにしか前へ進むことは出来ない。
腹に付いた土が乾き昆虫の身体は埃に塗れていく。
誰もいない真昼の公園。
残暑のきつい太陽が照りつける。焦げるような日差しに汗が流れた。
それでも太一は一人佇み昆虫を見下ろす。
今は生きている。でも確実にこの昆虫はここで死に絶える。
日差しに少しずつ体内の水分を奪われ、カラカラに乾き干からびながら。
ボクがこの運命を決定付けた。
いつまでもいつまでも見続ける。
がんばれ
くるしいか
つらいか
らくになりたいか
とりとめなく浮かぶ思考。
それでも、それを導いたのは自分だという不思議な昂揚。
長過ぎる陽が傾いてもまだ太一はそこにいた。
流れる時間に逆らうようにじっとそこから動かなかった。
そうしていつしかその昆虫は動かなくなる。
それを見届けると、その途端太一自身も酷い熱中症で倒れた。
遠く幼い夏の記憶。
どうして今、こんな昔の事を思い出したのか不思議だった。
今日もこの空間の中は濁った性臭だけが漂っている。
今日が何月か、何日か、何曜日か、何時か。そんなものは一切ない。
ここに克哉がいる。自分と一緒にこの空間を共有している。
その事実だけがあれば他に何もいらなかった。
すっかり当たり前の音になった克哉の喘ぐ声。
全く、克哉さん。あなたって人は・・・・
半ば呆れるような気持ちと、それと同時に敬意すら感じる。
「克哉さん。すごい腰振ってるね。ほら」
蔵の隅には古い鏡台が置かれていた。
その前で胡坐をかくように座った太一の上に背を向け全裸の克哉は自ら腰を落とし、深く挿し入れている。
鏡は露な姿の克哉とその背後の太一を映し出す。
「克哉さん。鏡、見て。克哉さんのアソコ、すっごくよく見える。」
目の前の鏡から目を背ける様に俯いたままの克哉に耳元で囁く。
「・・・いやっ・・だ・・・見ない・・・・・」
「うーん。一応は抵抗するんだよねぇ。律儀だなぁ・・・」
独り言のように呟いた後「でも結局は見る癖に」はっきりと言い放つ。
「ほーら、顔を上げて。我侭言っちゃだめでしょう?ちゃんと見て、どうなってるか、自分で言ってごらん。」
「そんなっ・・・・」
「本当は言いたいんでしょ?・・・・だって克哉さん、卑猥な事言うとすぐ固くなるもんねー。」
「・・・っく」
奥歯を噛み締める。
そんな反応を愉しむように太一は声を出して嗤う。
「目を開けて。ちゃんと見届けて。ほら・・・どうなってる?」
ゆらゆらと克哉は視線を上げる。
太一の言う事は絶対で。こうするしか他に選択肢はないから。
でもそんな言い逃れが出来ないのは自分が一番分かっている。太一は自分の本当の欲望を叶えるきっかけを与えているに過ぎない。
「・・・っう・・」それでも余りに露骨に映った自分の性器に目を背けたくなる。
なのに、同時に太一を埋め込んだ場所が疼き、性器の先端からトロリと雫が溢れたのが分かってしまった。
そんな克哉の反応全てを太一は愛おしそうに見詰めている。
太一が待っている・・・俺の言葉を・・・・・
「・・・・・勃って・・・る・・・太一のが入ってるから・・・感じて・・・
大きくなって・・・・・先が濡れて・・・零れて・・・・・・」
「うん・・・そうだね・・・・よく言えましたぁ・・・・エライエライ」
優しく髪を梳き上げる。
「こーんなになっちゃってるのに克哉さんのここ、一人ぼっちでかわいそー。
でもこんな風にしてると、ピクピク動いてカワイイな・・・・あぁ、克哉さん、こんなに感じてんだーってすっごいよく分かる。」
「っ太一・・・・あぁ・・・」
太一が見ている。
形容する。
視界に入る。
身体が反応する。
螺旋のような快楽に気が遠くなる。
気付かないうち、克哉は腰をくねらせ自らその螺旋を落ちていく。
「うわ・・・今日の克哉さん・・・積極的。
やっぱ克哉さんってさ、恥かしい方が好きなんだねぇ」
太一の指が前に伸びた。
指先が濡れた先端に触れる。それだけでビクリと大きく身体が仰け反ってしまう。
揺すった腰の動きに合わせ太一の指も竿を包み扱いていく。
仰け反り突き出された胸の先端にもう片方の指が伸び、摘み上げる。
「はぁ・・・たいっち・・・・・だめ・・・・そんな・・・・全部・・さわったら・・・・」
「んー、これ全部だめなんだ?・・・・じゃ、全部いっぺんに止めちゃおうかぁ・・・・」
「っはぁっ・・・たいちっ・・・!」
咄嗟に目を見開いた克哉に「うそうそ。そんな事したら、克哉さん、どうにかなっちゃうもんねぇ。」としれっと言い放つ。
「克哉さんがあんまり嘘つくから、苛めちゃった。ごめんね。」
小さく舌を出し、うなじにペロッと這わす。
「うっ・・・はぁ・・あっ・・・」
「克哉さんの中・・・・どんどん熱くなってくる・・・・
ねぇ克哉さん・・・・オレだからだよね・・・・?
克哉さんがこんな風にいやらしくなって、感じるのって・・・・オレとだからだよね・・・・?」
「うっ・・・あっ・・・ん」
肯定とも否定ともつかない克哉の声。
それを聞きながらふと考える。
「離さないから。もし、克哉さんがこの生活から逃げたくなったとしても。
絶対ここから逃がさない。」
いつか、この人がこの空間に満たされることが出来なくなった時。
オレは克哉さんのこの四肢をもぐのかもしれない。
2008/3/6