克哉さんを腕の中に抱き締める。
ねぇ。克哉さん。
この腕の中にいる克哉さんは、ほんとにほんとの克哉さん?
どうしてそんな事も分からなくなるのかなぁ。
オレさ。
こうして克哉さんをぎゅってしてても、なんか、すっげ、不安になるんだ。
やっぱ、これって、克哉さんの幻影なんじゃないのか、って。
なんてのかな。
唐突だけど。
人間って欲があるじゃん?えっと、食欲とか性欲とか、そういう原始的な欲求の次にある欲求っての?
『自分を認めて欲しい』欲・・・みたいな。
オレを知って欲しい。オレの事を見て欲しい。オレの気持ちに共感して欲しい。
絶対誰でもそういう気持ちってあると思うんだ。
オレが音楽やってるのって、きっとそのため。
オレは音楽を通して、それを伝えられる。
日常生活のオレも、もちろんほんとのオレだけど、それだけじゃダメなんだ。
だってさ。隠してんだもん。
痛ってーよ。
寂しいよ。
悔しいよ。
分かってよ。
気付いてよ。
隠したいのに、分かって欲しいって我侭な気持ち。
だからあの日。
克哉さんがオレの歌を聴いた後。『くやしい、かな』って言った時。
正直予想外で。驚いて。
で。
本当は泣きそうになった。
今まで、そんな風に言った人、誰もいなかった。
克哉さん。
あなたがはじめてだった。
オレ、その前からずっと克哉さんに興味はあったけど。
多分、あの瞬間。
オレにとって克哉さんは運命の人になったんだ。
なのに。
克哉さんからはね。そんな「欲」が感じられないの。
それよりむしろ、「自分を消したい欲」を感じちゃうんだよね。
ね。なんで?
人によって、その表現方法って色々違うよね。
例えばオレみたいに音楽で伝えようとする人、「絵」で表現する人もいる。「文」で表現出来る人。
場合によっちゃ、スポーツもその一つに入るのかもしんない。
動作ひとつひとつが、「勝とう」って強い意志の表れ。
それって動物の本能って感じで、すんごいキレイだと思う。
だからね、克哉さんがバレーやってたのって、そんな克哉さんの表現方法だったんじゃないのかな?って思ったんだ。
でも、克哉さんは、あっさりそれを否定した。
そん時はオレ、正直、悲しかった。
ううん。
誤解しないで。
オレはさ。
ほんとの克哉さんを知りたいんだ。
そんな風にひた隠しにする、克哉さん自身も知らないほんとの克哉さん。
空を掴むような実態のない克哉さんじゃなくって「あぁ、これが克哉さんだ」って思えるような。
それを、知りたいだけ。
でね。
怒らないで聞いて欲しい。
セックスしてる時の克哉さんは、そんな「ほんとの克哉さん」に近いんじゃないかって思う。
自分の気持ちに忠実で、自分の欲に忠実で、そんな自分を否定しながら、どんどんエッチになる克哉さん。
声が枯れるほど我を忘れて喘いで、乱れて、何度もイっちゃうの。
ほら。
そんな風にまた克哉さん顔を背けるけど、本当の事じゃない。
だけど、オレはそれが嬉しい。
「あぁ。克哉さんはオレの前で、今、自由なんだ」って思えるから。
『こんな事でしか自分を表現出来ないなんて』なんてそんなこと言うけど。
いいんだ。
だって、克哉さん。本当に綺麗だもん。
苦しくて泣きたくなる位、綺麗なんだもん。
オレ、普段はやっぱ素直じゃないからさ、照れて笑ったりするけど、ほんとは真面目にそう思ってる。
だから。
もっと知りたい。
ほんとの克哉さんが。
実感したい。
オレだけに見せる、ほんとの克哉さんを。
そんな、困った顔しないで。
たまんなくなるじゃん。
だいすき。
2008/3/10