爪
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「いつからだろうね。」
少し自嘲気味に呟いて僕は爪を噛んだ。
気が付いた時にはもうその癖は付いていた。
初めて君が僕の前に現れた幼かったあの時には
もうこうして同じように爪を噛んでいた。
隣には君が深い息で眠りについている。
静寂の中、カーテン越しからの月明かりだけが二人を照らす。
さっきまでの、濃密な時間が幻の様な気さえする。
いつからが僕は大人、なのかな・・・・。
君とこうして時間と体を重ねる今の僕は子供なのかな、大人なのかな。
早く大人になりたかった。
それが一体どんな事かも解らずに闇雲に、先を急ごうとした。
早く大人になろうともがいていた。
あの日、君が僕の前に現れるまでは。
変わっていく僕。
変わらない僕。
静かに君の手を取り、そっと君の爪を噛んでみる。
君は・・・
「変わりようがない・・・よね。」
そっとそのまま目を閉じた。
このまま。
君と朝を待とう。
この夜に。
君とこうして過ごせる夜に別れを告げながら
今夜はこのまま朝を待とう。
fin.
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