酔狂
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「君は僕からの罰を受けたがっているんだよ。
僕はね、本当は君がどんなことをして欲しいか知っているだけなんだ。
これは君自身が望んでいたことなんだ。
・・・・・僕が叶えてあげるからね。」
ゆっくり人差し指を滑らせ俺の体をなぞっていく。
次に寿也が指を留めたのは耳だった・・・・。
不意に指を離した寿也はきつく縛られ動きの取れない俺の両手を更に強く掴み、唇を耳に近づけた。
無意識に体が強張る。
その手を握り締める強さとは裏腹に、そっと舌先を耳朶から上へ滑らせていく。
ゆっくり、這うように。
「・・・っ・・!」
耳を伝う感触は右半身に軽い痺れを起こす。
そのまま、ゆっくりと舌を耳の溝に沿わせ、奥まで差し入れてきた・・・。
・・・・耳が人間の器官の中で一番原始的なしくみ・・・・・
いつか何処かで聞いたそんな言葉が脳裏をよぎる。
クチャ・・・
耳の中を舌を這わせる音が頭の中を埋める。
それは今までに味わった事の無い音。
その音は止め処なく耳に降り注ぐ。
クチャ・・・クチャ・・・
「・・・っや・・・やめろっ・・・。」
まるで、深い水中に潜り込んだような感触・・・・。
その音が体を纏わり付いてくる。
逃げたい・・・・・
逃れたい・・・・
既にその原始的な感覚は俺の体の自由全てを奪っていた。
「吾郎君、君はまだお勉強が足りないみたいだね?
『やめろ』じゃないでしょう、
ほら、ちゃんと言ってごらん、『やめて下さい』って。」
微かに笑いを含んだその声は何処か頭の遠くから響いてくるような錯覚を覚える。
耳からの音が脳を伝い全身を伝い、理性を失わせていく。
「っ・・やっ・・・やめて・・下さい・・・。」
屈辱感が胸を締め付けた。
なのに自分の体が自分の思惑以外の反応を示していく。
「お利口さんだね、吾郎君、
そんなに、目を潤ませちゃって・・・悔しかった?
ふふふ、違うよね、だって、もうこんなになっちゃってるよ。」
寿也はゆっくりと胴着のズボンの中に手を差し入れた。
「!・・・っ」
寿也の手の動きに体が無意識に反応するものの、 俺は声をあげる事が出来なかった。
・・・・試合で精神を消耗していたのは、むしろ俺の方だったのか。
ゆっくりと寿也はズボンの紐を解いた。
ストン、と胴着は躊躇いなく床へ落ちた。
「・・・いけない子だね、吾郎君は。
ほら、こんなに下着を濡らしちゃって、 だめじゃない・・・・。」
寿也の手は俺の濡れた先端をゆっくりと撫で付ける。
指の動きが更に止め処なく溢れさせていく・・・。
「・・・っくっ・・あぁ・・」
「でもね、そんな君だからかわいいんだよ。
嘘のつけない君だから。」
ゆっくりと指は裏をなぞり、俺のものを弄ぶ。
そのままそっと下着を下ろした。
露になった下半身を見て、我に返り俺は動揺した。
「寿、勘弁してくれ、こんな所で・・・
俺が悪かったからっ!
頼むからもう止めてくれっ!」
「まだ解からないの、吾郎君は。
君は僕に逆らう権利はないんだよ。
そんな事を言う権利はね。」
さっきまでの柔らかな口調からのあまりの温度の違いに息を飲む。
寿也の唇が俺の口を塞いだ。
ゆっくりと、舌を絡める。
まずい・・・このままじゃ寿也の思う壺だ・・・。
そう思っても息苦しさと、頭の奥が溶けていくような感覚が容赦なく襲ってくる。
だめだ・・・。
そう思った瞬間。
「それじゃぁ、君の願いを聞いてあげるよ。」
寿也は突然体を離し、背中を向けた。
そのまま向かいのロッカーまでゆっくり歩き、再びこちらを向くと
ロッカーに寄りかかり、腕を組んで俺の方を見た。
歪んだ口元がわらっている。
「これで終わりにしよう。」
帯の解かれた胴着1枚にその帯で両手首を拘束された姿のまま、俺はその場に立ち竦む。
寿也の視線が絡む・・・・。
じっと身動きをせず、腕を組んだまま余裕げな笑みを浮かべている。
自分の姿が居た堪れなくなる、この屈辱感・・・・。
・・・・なのに、何なんだ・・・
激しい高揚感が体を満たしていく。
俺に注がれる寿也の視線を感じ、羞恥心と高揚感が入り混じる。
「見るなっ、早く帯を解いてくれっ!」
「違うでしょ、吾郎君?
君は嘘を付けないんだよ。
フフフ・・・、体は正直だよね、君の其処は今、どんな風になっている?
ちゃんと言葉で言ってごらん、
本当はどうして欲しいの、僕に?」
唾を飲み込んだ。
俺は・・・どうしたいんだ・・・・?
寿也に何をされたいんだ・・・・?
鼓動が激しく胸を打つ。
ある一つの答えを見つけ出しても、躊躇して声に出せない。
「この期に及んでもまだそんなプライドが残っているんだね。
しょうがない子だな・・・・。
じゃぁ教えてあげるよ、
君は僕に口でして欲しいんでしょ?
でも、ちゃんと自分で言わないとしてあげないよ、
ほら、言ってごらん・・・
『僕の此処を舐めて下さい』って。」
わらっている・・・寿也はわらっている・・・・。
「・・・ぼ・・ぼくの此処を・・・・舐めてください・・・・。」
寿也の表情ふとが和らいだ・・・。
「いい子だね、吾郎君・・・。
分かったよ、じゃあ、そうしてあげるね。」
ゆっくりと近づいた寿也は俺の足元に跪いた。
そっと唇を寄せる。
軽く唇が触れるだけで、全身が激しく痙攣する。
「っあ・・・!」
舌先が濡れた先端をゆっくり這う。
「っくっ・・あ・・あ・・・・!」
無意識に喉から漏れる自分の喘ぎ声を止める事が出来ない。
もう寸前まで追い詰められていた。
それまでに消耗しきった体力、精神は既に俺を限界まで追い詰めていた。
・・・だっ・・だめだ・・とし・・・・
おねがいだ・・・もう・・・もう・・・・おれは・・・・
上目使いに寿也が俺を見詰める。
薄く開いたその目の淫靡な色が俺を狂わせる。
「・・・いいよ、吾郎君・・・ ご褒美だよ・・・。」
その声は俺の耳を通して聞いたのか・・・
それとも、心を通して聴いたのか・・・・
「っあっ・・!ぁあ・・あ・・!」
血液が波打ち、駆け回る。
全身を衝撃が走り、俺は全てを吐き出した・・・・。
が。
突然やってきた激しい脱力感。
自分の体を支える事すら出来ない・・・・。
だめだ・・・・
俺は、既に意識が遠のき、そのまま寿也の体へ身を落として行った・・・・。
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気が付いた時は寮のベッドの上で寝かされていた。
きちんとした身形をしていた。
さっきの出来事が幻だったかのように、静かだ。
どの位眠っていたのだろう、窓からの景色は既に日が傾いている。
向きを変えると、ベッドの横に座っている寿也がいた。
静かな佇まいで俺を見ている。
その目は穏やかで、なのに何処か悲しそうに見えた。
「・・・ごめんね、吾郎君。
僕は君を追い詰めてしまったね。
僕の悪い癖だ、
大事なもの程壊してしまいたくなるんだ。」
そう言うと、寿也はそっと手を俺の額に触れ、優しく髪をかき上げた。
柔らかな動きだった。
愛しむように、優しく。
「・・・どうしたら、僕は君を傷付けずに愛せるのかな・・。
僕には・・・愛し方が・・・」
「違う・・・・。」
思わず寿也の言葉を遮った。
「なんでお前はそうやって自分ばかり追い込むんだ。
俺は・・・
俺は、寿を・・・求めていたんだ、
寿と同罪なんだよ・・・・。」
目を見開き、寿也が俺の顔を凝視する。
「吾郎君・・・。」
俺は髪に触れている寿也の手に自分の手を重ねた。
どうすれば、こいつを救えるんだろう。
いつだって、何処か瀬戸際に立っている寿也を。
「愛してるよ・・・吾郎君・・・。」
そっと寿也の唇が俺の唇に触れた。
触れるだけの切ないキスだった。
わかってる、
そう言おうと思って止めた。
「・・・・違う、・・俺が、
俺が寿の事を・・・・」
少し悲しげに笑った寿也が言った。
「わかっているよ、吾郎君・・・。」
「・・・分かっているから。
今はもう少し眠りなよ、
僕がついているから。」
その言葉に俺は静かに目を閉じた。
・・・continues to 「爪」
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