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【4】
吾郎は自分でする時と同じように指を動かす。
自分のやり方が他人にも同じ感覚をもたらすのかは分からなかったが、他に方法を知らない。
ドライバーの反応を確かめるように表情を見詰めた。

ドライバーから声は聞こえない。
どこまでも吾郎の動きに静かに抵抗しているようだった。
しかし、吾郎が触れた指先は次第に先端から漏れる透明の液体が濡らし始める。
指先にあたる感触が変化していく。
血液が固く波打つのを感じる。
同じ男なら分かる。
もう、きっと限界が近い。


吾郎の息が小刻みに荒くなった。
このプライドの高そうな男が、自分の意思に反して快楽を感じている。
押し殺そうとしても抗えない感覚に流されようとしている。
ドライバーの身体が強張る。


「我慢しねーでイけよ・・・・」
耳元で囁くと耳朶を小さく舐めた。


「っはぁ・・・あっ・・・・・・・」


手の中でそこはピクリと震えると、身体を大きく弓ならせドライバーは吐精した。

胸を激しく上下させながら苦しげに口を僅かに開き息を吐き出す。
吾郎はすかさずその唇を自分の唇で塞いだ。
荒いドライバーの呼吸が体内に入り込んでくる。

「まず1回な」
唇を離さないまま吾郎はその言葉をドライバーの口の中に押し込んだ。

「でもよ、こんなんじゃねーよな、あんたが欲しいのはよ」



手首を上から押さえ付けなから見下ろす。


薄っすらと汗を滲ませたドライバーの表情には達した後の脱力感、羞恥心、そして、まだそれにも抗おうとするようなものが感じられ、それが酷く扇情的に思えた。


―――――いい顔だな



身体はもう滾っているというのに、酷く冷静だ。
ドライバーが吐き出した白濁を指に絡る。
こいつの身体の中身をもう知っている。
足を開かせゆっくりと指を触れ、押し当て、広げる。
まだ快楽の余韻が残る身体はその感触をすぐに痛みではないものとして受け入れた。
吾郎は濡れた自分を宛がい、そのまま深く沈めていく。時間を掛けたが、思いの外素直に吾郎を許した。
歯を食い縛っているのは痛みに耐える為なのか、快楽に耐える為なのかドライバーにも分からない。




「くっ・・・・」

「息、吐けよ・・・・・あんた、すぐ息止める」

まるで慈愛のような声と言葉。そして吾郎自身も大きく息を吐き出した。
追い掛けるようにドライバーも息を吐き、二人の呼吸は重なる。

「っう・・・・・ぁっ・・・・・・」

反射的にドライバーから嬌声が上がった。

こうなる事は吾郎には分かっていた。
きっとドライバー自身はそんな自分の身体を呪うだろうが。
吾郎がそこを貫く度にドライバーは表情を歪ませ、性器を勃ち上げる。

律動を続けながらも吾郎は無意識に、自分の肉体よりもこのドライバーが感じる快楽を求めていた。
いつしか吾郎は言葉を忘れていた。

ドライバーの先端から、涙のように雫が溢れ出て周囲を濡らしていく。
吾郎がそこに手を触れるとドライバーは、「っ・・・やめろっ・・・・・・」と小さく声を上げた。

しかしその声は以前のように威圧を持ったものでない。
ドライバーの必死の懇願のようだった。

―――――なんだよ、これは



その時、吾郎は戸惑った。
不意に胸の中に苦しさを感じたのだ。
息が詰まるような、泣きたいような、言葉に出来ない感情。

ドライバーを見詰めたまま吾郎は指を触れた。
「はぁ・・・・・ぁあ・・・・・・」

固く目を瞑り切なげな声が漏れる。
まるで助けを求めるような。

吾郎は口を開く。
「―――――目を・・・・・」

ドライバーにはその声は届かない。
もう一度言った。

「目を開けて俺を見ろ」


低いその言葉にドライバーの息が一瞬止まった。

「見ろよ、俺を―――――」

押し殺した言葉の後、ドライバーを包んだ指を追い詰めるように握り込む。

「ぅあ・・・・」

反射的にドライバーはより一層固く目を瞑る。
しかしそれを見た吾郎は声を荒げた。

「早くっ!目を開けろっ!俺を見ながらイくんだよっ!」

切羽詰まった声にドライバーは目を開ける。


二人の視線はぶつかった。



僅かに怯えたような目でドライバーは吾郎の表情を見る。

それは、ドライバーが思っていたものとはまるで違っていた。
苦しげに薄目を開け、自分を見詰めるその顔は
まるで何かに助けを求めているようだった―――――

思わずドライバーはその目から動けなくなる。
激しい羞恥よりもその視線の苦しさに。

吾郎は触れた指を追い詰め、その瞬間もう一度


「俺を――――俺を見ながらイってくれ・・・・」





そう漏らすと、そのまま二人は互いから目を逸らさないまま果てた。






□□□




無表情のまま二人は自分の支度を整えていく。
身体を離した後は、二人の視線が合うことはなかった。
無言のまま車内に戻った後も何処となく気まずいような空気が流れていた。
互いに掛ける言葉が見当たらない。
吾郎は後部座席からドライバーの後姿を見詰め、頭の片隅でぼんやりと言い訳になるような言葉を捜していた。
自分の中に眠っていた子供じみた独占欲を自分自身にはっきりと見せ付けられた気がしていたのだ。

「名前くらい教えてもらってもいいんじゃないのかな」


前方を見たまま、不意に掛けられた言葉にはっと我に返る。

「あ?」

思わず素っ頓狂な声が出た。

そう言えば、そんな事を考えもしなかった。
そんな必要など、どこにもなかったからだ。

「君だけ僕の名前を知っているってのはフェアじゃないだろ」
「あ、あぁ・・・・・」

吾郎は名前を告げようとしたが一瞬その言葉を飲み込むと
「――――本田・・・吾郎」と小さく言った。

一瞬ドライバーの視線がミラー越しに吾郎を見る。

「へぇ・・・・」独り言のように呟いた。


「じゃぁ、『吾郎くん』って呼べばいいかな」

「はぁ?」

今度は思い切り間抜けた表情になる。


「なんだそれ!『吾郎くん』だぁ?!
何考えてんだ、お前!この年で『吾郎くん』て、それはありえないだろっ?」

「え、別にいいんじゃない?
それに『吾郎くん』は意外に子供らしいところがあるみたいだし」

密かに棘を含んだ口調で痛いところを突かれた吾郎は、見るからに動揺する。

「やめろ、お前、それだけは絶対やめろ!じゃないとぶっ殺す!」

「やれるものならやってごらんよ、吾郎くん」

含み笑いを堪えたようなドライバーの声に思わず後ろから肩に掴み掛かった。

突然ドライバーは振り返ると、至近距離に近付いていた吾郎の唇にキスをした。

吾郎は目を開けたままだ。
そんな事が起こるとは思ってもみなかった。
目を閉じた、自分の目の前にいるドライバーの顔を凝視した。
そっと瞼が開く。

「僕のことは『とし』でも『としや』でもどっちでもいいから」


吾郎を見詰め、目を細めた。





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