taxiW
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【6】
吾郎は寿也の全身、余す所がない位順に唇で触れていく。
寿也の形を作るもの全てを自分の唇で触れたいと吾郎は思う。
触れられる場所、全てに触れたいと思う。
唇と共に吾郎の少し固い髪先が肌に触れる。吾郎の呼吸が皮膚に触れる。
「・・・吾郎くん・・・・君が・・・・欲しい」
喉を仰け反らせ小さく震え、寿也は静かな欲情を口にした。
心から吾郎が欲しいと思った。
吾郎はゆっくりと指を入れ、解し、それでも少し寿也は声を漏らし、吾郎を受け入れた。
その瞬間、反射的に寿也はきつく目を閉じたが、すぐにまた瞼を開けると吾郎を見る。
「入ったぜ・・・・寿也・・・・お前ん中に俺が入ってんだぜ」
吾郎は、寿也の感触を確かめるようにゆっくりとそこを動かしていく。
「・・・・あぁ」
こんなに穏やかな律動だと言うのに、吾郎が体内を動くたび気が遠くなるような快楽を感じた。
体内に吾郎の存在を感じる。
それだけで、身体だけじゃない部分までもが満たされていく。
「寿也・・・・分かるか・・・・?俺のが入ってんの・・・・分かるか?」
寿也を見下ろしながら吾郎は声を絞り出す。
じれったい程の動きは吾郎にも強い刺激とは違った快感を運び、苦しかった。
それでも、今は寿也の身体を感じるこの瞬間が愛おしい。
少しでも長く、寿也を感じたいと願う。
「あぁ・・・・・吾郎くんが・・僕の中に・・入ってる」
「気持ち・・・いいか?」
「・・・うん・・・すごく・・・・気持ち・・いい」
「・・・俺もな・・・すげぇいい・・・寿・・・・」
堰き止めたような静かで激しい快楽の中、寿也は思っていた。
僕らはもう充分に憎しみや失望に時間を費やした。
充分にその為に涙を流した。
吾郎くん・・・君だって同じだ。
吾郎のぶっきらぼうな口調や、つっけんどんな表情が本当の彼を隠しているのを知っている。
君の見えない涙を僕は知っている。
愛なんていうものから、君は一番遠い存在な筈だった。
なのに、あの夜。
引き合うように君がタクシーに乗り込み、僕の身体を奪った時から。
きっと歯車は動き出していたんだろう。
「寿也」
吾郎が寿也の名を呼ぶ。
目の前の寿也の存在を確かめるように。
寿也はその声を愛しいと感じた。
幸せと苦しみは似てる。
この瞬間がこんなにも愛しいと思うのに、なぜか胸は苦しい。
「・・・・気持ちいいのと苦しいのって・・・・・似てるんだね」
「そうだな・・・・でも」
「ん?」
「お前とだから、全部味わいてぇ」
「あぁ」
憎しみも哀しみも愛しさも快楽も全部僕の中にある君への想い。
きっと君とだから。
君だからこんなに激しくそれを感じるんだ。
そしてもし、こんな行為でこの気持ちが証明出来るのなら。
なんだか酷く哀しい気もするのだが。
でももし、こんな行為でも愛情を示す事が出来るのなら。
「俺は―――――」
「僕は君を愛してる」
想いは重なる。
身体を隔てていても。例え一つになる事がなくても。
こうして、想いだけでも重ねる事が出来るから。
今は体中で感じる幸せだけを噛み締めよう。
二人だけで味わえる幸せを。
これが僕らの限界だから。
「吾郎くん・・・一緒に・・・・いこう・・・・・君と一緒にイきたい・・・・」
「あぁ・・・」
寿也の一番深い場所を探るように吾郎は身体を沈める。
「寿也・・・っ」
「吾郎くん・・・」
こんなに静かな絶頂があることを二人は初めて知った。
→エピローグ
>> back to select menu